キーンコーンカーンコーン……
「はい、じゃあ今日の片付けは、3班の人がしてね」
「はーい」
「わーい、今日はこれで終わりだね」
「うん、でも、帰る前に雨が降らなくてよかったね」
「吉野、内田」
「ん? どうしたのマコトくん」
「早く片付けないと、帰りの学級に間に合わないよ」
「南が俺を無視します」
「また?」
「今度はなんで?」
「それが、まったく心当たりがないんだ」
「うーん……」
「マコトくんだからなー……」
「どうすればいいんだ……」
「どう思います? バットさん」
「バットさんて誰だ」
「私が思うにですね、グローブさん」
「グローブさんて誰だ」
「ボールさんの最後のエラーで負けたからかと」
「なるほど、ボールさんは俺だな!?」
「チアキちゃんに謝ってきたら?」
「よし! じゃあ、後片付けは俺が全部やるから、お前らは帰ってていいぞ!」
「ホント? やったー」
「でも、チアキちゃんは先に得点ボード持ってっちゃったよ」
「そうか! じゃあ、一人でやって遅くなると先生に怒られるから、体育着は隠しておいてくれ!」
「うん、わかった。うまくごまかしておくね」
「じゃあ、よろしくー。ラッキーだなー」
「うわっ! いっぺんに全部持つのって難しいな!」
「ところで気になることがあるんですが、体育着さん」
「どうしました体育着さん」
「チアキちゃん、今日は朝から機嫌悪かったよね」
「うん、私も気になってた」
「大変だ! ボールがこぼれた!」

「はあ」
今日は朝から眠い。
当たり前だよ、ほとんど寝てないんだから。
疲れた。今日はもう、考えすぎて疲れた。
昨日のあれはなんだったのか、未だによくわからないよ。
「もう、今日は早く帰って寝よう……」
この得点ボードを片付けたら、さっさと教室に戻って、家に帰ろう。
だけど、まさか今日も、あんなことになってたらどうしよう。
「南っ! お待たせ!」
「…………」
ハルカ姉さまは部屋が暗くてよくわからなかったけど……なんだか、ベッドで丸くなっていた。
私にはよくわからないけど、なんだか、いつものハルカ姉さまじゃないみたいで、怖かった。
「今日はエラーしてごめんなさい! だから、全部一人で片付けるために来ました!」
「…………」
カナに至っては、明らかにおかしかった。
藤岡と何をしていたんだ? キスをしていたのはわかるんだけど。
「チアキ?」
「…………」
その後、なんだか怖いことをしていた。
なんだかよくわからないけど、いつもの二人じゃないみたいで、やっぱり怖かった。
「姫!」
「…………」
まあ、いいよ。今日はもう疲れたんだ。とにかく、ベッドに入って寝転がりたいよ。
帰ろう。
「南! 南っ! チアキ! ごめんなさい!」
「ん? なんだ、いたのか。みんなはどうした?」
「はいっ! 俺のせいで負けたから、一人で片付けようと思って帰らせた!」
「そうか。じゃあ、私も帰っていいか?」
「はいっ!」
帰ろう。考えても仕方ない。
もしかしたら、昨日のは夢だったのかも知れないし。そう思おう。
「南っ!」
「なんだ?」
「ボールをどこに片付ければいいのか、わからないよ!」
知るか。
「知らないよ、そんなの。どこか適当に空いているところにでも置けばいいだろう」
「わかった!」
ああ、うるさい。私は疲れてるんだ。
「よしっ! あの棚の上に隙間を見つけたぞ!」
「ん?」
「それっ!」
マコトは身長が届かないところに、ムリに詰め込もうとしていた。
「おい! 隙間に無理やり入れるんじゃなくて、キチンと空いてるスペースにだな……!」
「ああ! 任せろ! えいっ!」
がらがらがっしゃーん
「…………」
「…………」
ぽーんぽーんぽーん……
「…………」
「…………」
カンベンしてくれ……。
「み、南! ごめんなさい! だけど、俺一人で片付けるよ!」
「バカ野郎……」
こんなのを放っておいたら、私のほうが先生に怒られるじゃないか。
頼む、ホントに疲れてるんだよ……。
「いい。私がやるから、お前はただボールを拾い集めることだけしてくれ」
「俺も手伝うよ!」
「いいから拾え」
「はいっ!」
ああ、もう、考え事なんかしてないで、さっさと帰ればよかった……。
昨日から、なんだかずっとツイてない気がする。
なんで私ばっかりこんな目に遭うんだろう。
「南っ!」
「なんだ?」
「ボールが一個、奥のほうにいって取れないよ!」
「どこだ?」
「ほら、跳び箱の奥にいっちゃって、手が届かないんだ!」
「ホントだ。あれは取れないよ。跳び箱を登るしかないな」
「よしっ! じゃあ、俺が取るよ!」
「いい。私がやるから、他のを集めてろ」
「はいっ!」
こういうとき、身長がないって困るなあ。
ふう。なんで体育倉庫っていうのは、こんなにほこりっぽいんだろう。
「南! 取れたか!?」
「な! お前まで来てどうするんだ! 私一人でいいだろう!」
「カゴ持ってきた!」
「ああ……ありがとう」
「今行くぞー」
その時私は、跳び箱を登って、カゴを横倒しにして、ボールを撒き散らすマコトの姿が脳裏に浮かんだ。
「待てっ! いいっ! カゴはいいから、持ってくるなっ!」
「はいっ!」
ふう……なんで私が、マコトの操作までしてあげなくちゃいけないんだ。
「南! 来たぞっ!」
…………。
「……何をしに?」
「大丈夫! カゴは持ってこなかった!」
だったら、お前が来る意味自体がないでしょう……。
と思ったけど、説明するのが面倒だから、もう諦めた。
「わかった、ありがとう」
「どういたしまして!」
「ここは角になって狭いから、さっさと登ろう」
サア……
「ん?」
「どうした? 南?」
「……雨が降ってきたな」
「そういえば、天気予報で降るって言ってたな」
最悪だ。私は今日、傘も持ってこなかったんだ。
「もう、いい、さっさと行こう」
ちょっと気温も寒くなってきた。
体育着のままだと、カゼをひいてしまうかもしれない。
その時、ドアのほうから声がした。
「なんだー? 誰もいないのか?」
あれ? あれは2組の先生か?
「いや、ここに……」
「まったく、ちゃんと鍵をかけておけって言ってるだろう……」
がしゃーん
「あ……」
がしゃこん
「…………」
「南?」
絶望的な音が倉庫内に響き渡った。
外の体育倉庫は、普通の鍵だけじゃなくて外から南京錠もかけるんだ。
「どうした南! もしかして、登れないのか!?」
マコトが下から突っ込んできた。
「うわっ! バカ野郎、押すなっ!」
どしーん
「いたた……」
「南っ! 大丈夫か!?」
「大丈夫じゃないよ……」
肉体的ダメージより、精神的ダメージのほうが大きかった。
「おい……鍵を外からかけられたよ」
「ええっ!?」
マコトが大声をあげた。
なんであの時、このくらいの声を出せなかったんだろう。
普段大きな声を出したことのない、自分の声帯をちょっと恨んだ。
「よし! 俺が助けを呼んでくるよ!」
「悪いが、期待してるよ」
この状況だと、マコトのバカみたいに大きい声だけが頼りだよ。
私は疲れて動く気力もなく、ドアの前で叫ぶマコトの声を聞き続けた。

「ごめん、南……」
「仕方ないよ」
結局、しばらくたったけど誰も来なかった。
来たのかもしれないけど、この土砂降りの雨の音と、体育倉庫の完璧な防音で、聞きつけてくれって言うほうがムリだ。
それよりも、疲れた。もう、しゃべる気力もなくなってきた。
ホントに、なんでこんなにツイてないんだろう……。
「南っ! 俺、考えたんだ!」
「…………」
「学級会で俺たちがいなければ、先生が気づいてくれるんじゃないかな!」
おお。
マコトにしてはまともな思考だ。
「あと、クラブの時間になれば、誰かがこの倉庫を開けるよ!」
「そうだな……それまで待ってよう」
「そうだね!」
だけど、このとき気がつくべきだったんだ。
雨が降ってたら、外でやるクラブ活動なんて、お休みだってことに。
もっとも、気がついたところで、どうしようもないんだけど。

「誰も来ないな……」
「ああ、そうだねえ……」
もう、どのくらいたったかわからない時間になっていた。
私は疲れて居眠りしていたけど、やっぱり誰も見に来てくれなかった。
「はあ……」
マコトもだいぶ疲れてるみたいだ。
私なんか、もっと疲れてるよ。
「寒いよ……」
雨の中、どんどん気温は下がっていった。
地面にそのまま座るのは冷たすぎるから、マットをひいてその上に座っていた。
それでも、体育着一枚の私は、居眠りしてから、どんどん寒くなってきていた。
「大丈夫か、南!?」
「私の体に触れるな」
「はいっ!」
と言っても、マコトも寒いんだろうけど。
はあ、なんで私はこんな目に遭わされるんだろう……。
「…………」
「…………」
さっきから、私たちはほとんど無言だ。
そもそも、マコトと二人きりなんて、私にとってどんな罰を受けるより残酷だと思う。
だから私は、ずっと自分の家のことを考えていた。
「な、なあ、南……」
「…………」
今日も、カナは藤岡と二人なんだろうか。
「その……俺のせいでごめんな」
「…………」
ハルカ姉さまは、今日の夜も昨日みたいなことをするんだろうか。
「…………」
「…………」
私にはわからないけれど、いつか私もあんなことをするんだろうか。
そう思うと、なんだか怖くなって、泣きそうになった。
「…………」
「…………」
私にはわからない大人の行為。
疲れきって、寒くなって、そんなことを考えて、私はどんどん心細くなってしまった。
「…………」
「……なあ」
「えっ!? なっ、なんだ!?」
私から出た声に、マコトはまるで助かったかのように飛びついてきた。
「おかしなことって……なんだ?」
「おかしなこと?」
マコトは、私が急に出した話題に、頭がついてきていないようだ。
「前に知ってるようなことを言ってたじゃないか。おかしなことってなんだ?」
「そっ、それは!」
マコトは顔を真っ赤にして飛びのいた。
もしかして、私の考えてる「おかしなこと」と同じなのかもしれない。
「なあ、おかしなことを知ってるのか?」
「知ってるといえば知ってるけど」
「じゃあ教えてくれよ」
「俺もねえちゃんから聞いただけだもん」
「それでいい。教えて欲しいんだよ」
マコトはちょっと悩んでるみたいだった。
聞いただけなら、そのまま説明すればいいだけでしょう。
「じゃ、じゃあいくぞっ!」
「よし、こい」
がばっ
「何、するん、だっ!」
右ストレートが炸裂した。
「だ、だって、おかしなことを教えてくれって……」
「私の体に触れるな」
「だって、触らないと教えられないよ……」
「触る? 口で説明してほしいんだよ」
「わかった、口でするよ」
がばっ
「何、するん、だっ!」
黄金の右が炸裂した。
「〜〜っっ……〜〜……っ!!! ……っ!!!」
「私の体に触れるな」
「だ、だって、触らないとできないよ……」
「だから、言葉で説明しろって言ってるんだよ」
「体に触ったり、体を舐めたり……」
「そうか。それは私にはムリだよ」
「だろ? だから俺もしたことないよ……」
なんだ、そういうことか。
なんでそんなことをするのかはわからないけど、何をしてたのかはなんとなくわかった。
だけど、なんでそれが怖いのかはもっとわからなくなった。
「…………」
「痛い〜……」
怖いのはもしかして、私がそれをするのがイヤだからじゃないか。
それをすることによって、私は怖くなくなるんだろうか。
ふと、そんなことを思った。
「…………」
「南?」
「してみたいのか?」
「えっ?」
言ってから、急に汗が噴き出した。
急に体が熱くなってきたよ。これは、なんなんだろう。
「してみたいのか?」
「い、いや、俺は別に……」
「して……みたいのか?」
「はいっ」
前提として、私はしてみたくない。
そうじゃないと、なんだか自分がすごくおかしな生き物になる気がした。
「で、どうするんだ?」
「ええと……」
マコトが困ったように私の体を上から下まで見た。
「変な目で私を見るなよ」
「ご、ごめん」
マコトは困ったように手を伸ばすと、私の体育着の裾に手を入れた。
「なっ!」
ごそごそ
「何をするんだっ! やめろっ!」
「だ、だって、しようって言ったじゃんかっ!」
マコトに触れられるのは覚悟してたハズなのに、なんだか、急に怖くなった。
怖くなったというよりも、この感覚は。
恥ずかしくなった。
「うわっ!」
体育着をまくられて、私はすごく大事なことを思い出した。
「あれ。南ってブラジャーつけてるんだ」
「み、見るなーっ!」
そう。しまった。よりにもよって。
ちょうど昨日まで、私はキャミソールかタンクトップを着ていたんだ。
だけど、最近になって、私の周りの友人が一人、ブラジャーを着けてきたんだよ。
それ以来、ブラジャーをつける人口は多くなり、とうとうクラスでつけていないのは私だけになってしまったんだ。
これを第一次ブラジャーの政変と私は呼ぶ。
普段はみんなキャミソールのくせに、体育があるときは、みんなブラジャーを一斉に着けてきた。
だから私も、それとなくハルカ姉さまにお願いして、私用のものを、とうとう一枚買ってもらった。
そのデビュー戦が今日だったんだよ。
それがよりにもよって。
「うわっ、すげぇ!」
マコトに見られた。
はっきり言って、ブラジャーの本来の役割は果たせていないから、用は短いタンクトップと言っても過言じゃない。
もっとはっきり言ってしまえば、見栄だ。ああ、見栄だよ。
っていうか、バカみたいだ。
それを、クラスで一番のバカ野郎に見られてしまった。
「あっ、あっ……」
「ん?」
「もう、殺してくれ……」
全ての気力が一気になくなった。
もうダメだ。
「ど、どうした南! 俺、クラスの子がブラジャーしてるの初めて見たよ!」
「その話題をするな!」
ホントにバカ野郎だ。
何も考えてない大バカ野郎だよ。
少しは気を使えと思った。
「そっかー、南もハルカさんみたいになるんだなー」
ああ、私はハルカ姉さまにはなれないよ。ハルカ姉さま……。
ハルカ姉さま?
「あ! いや! 俺はハルカさんの胸を見たとかそんな!」
「ハルカ姉さまみたいに……?」
そうだ、これからハルカ姉さまみたいになるんだ。
「そうだ、南! 胸は触ったほうが大きくなるらしいよ!」
マコトがなにか必死に騒いだ。
「…………」
「み、南……?」
「マコト……ゴーだ」
「はいっ」
どうせ、ここまで来たんだ。もう、なんでも我慢しよう。
そう思って、ゴーサインを出した。
もう、なんでもやってくれ。
「じゃ、じゃあ、いくよっ!」
ぐいっ
ブラジャーをあげると、私の小さな胸がマコトの目の前に晒しだされた。
さすがに、恥ずかしいんだよ……。
な、なんだか、緊張してきたぞ。
くりっ
マコトの手が、私の胸の突起に当たった。
「あんっ!」
びくんっ
思わず私の体が跳ねた。
な、なんだこれ!? なんなんだこれはっ!?
「み、南?」
「く、くずぐったい……くすぐったいだけだよ」
「そ、そうか! じゃあ、いくよっ!」
くりん
「あぁんっ!」
なんだか、緊張して、想像以上にくすぐったい。
これは、我慢できるもんじゃないと思った。
「ま、マコト、もっと優しくしてくれ……」
「はいっ」
さわさわさわ
「う、うう……」
体がくすぐったくて、恥ずかしくて、頭がとけそうだった。
この感じがなにかに似てる……これは……。
くりんっ
「うあぁんっ!」
お、おしっこするとき……だ……。
くりっ、くりん、くりっ、くりん
「あっ、あぁっ! ひゃんっ! ダメッ、ダメだっ!」
初めての感覚に、体のどこかがおかしくなりそうだった。
「み、南……大丈夫か?」
こくん
かろうじてうなずくのがやっとだった。
というよりも、ホントに私は大丈夫なのか……?
ぱくん
そこで、信じられないものを見た。
マコトが、私のそれに口をつけた。
「なっ……」
ちゅう……
「あぁうっ!」
また、こそばゆい感覚が私の中をまっすぐに通った。
さ、さっきとは違う感触が、また……!
ぺろっ、ぺろぺろぺろ、ぺろっ
「あんっ! あっ、あんっ! ぁはっ、ふぁぁ……」
マコトは、アイスでも舐めるかのように、私のそれを舐めまわした。
だけど、指でされるよりも、それは私の芯によく通る感触だった。
「あぁっ、はっ、ふぁっ、はあぁ……ああぅんっ! あぁんっ! あっ! あ……っ!」
「はあ、はあ……あ、熱いよ、南……」
マコトはこの気温の中、体育着の上を脱いだ。
だけど、不思議には思わなかった。
「南も、汗かいてるけど、熱いのかっ?」
え……。
ぽたっ
私も知らず知らずのうち、汗をかくほど熱くなっていた。
「熱い……」
マコトはマットの上に私を押し倒すと、私の体育着の上着を脱がせた。
「あ……」
ぺろぺろぺろぺろ
「ううっ! あっ、やっ……! ああ、はぁっ、うっ、あうっ……」
マコトの舌は、悔しいけどすごく、くすぐったかった。
そして、
ちゅうっ
「っっっ!」
ときどきこんな風に吸われると、その感覚はさらに大きくなった。
「うう……す、吸うのが、いい……吸うの……」
「はいっ」
ちゅうちゅうちゅうっ
「あんっ! ば……バカ野郎っ! あ、あ、そんなに強く吸ったら……痛いっ!」
「ごめん!」
かぷっ
「はううっ!」
認めたくないけど、これはある感覚なんじゃないかって思うようになってきてしまった。
「うう、う、うう……あ、あぁ……あんっ! あ、あんっ!」
「はあ、はあ」
マコトもだいぶ疲れてるみたいだ。
「ち、チアキ……」
いつの間にか呼び捨てだったが、疲れてるみたいだから、止めないでおいた。
「な、なんだ……?」
「ええと、次にいくよ」
「次……?」
マコトは「次」と言うと、私の下半身に手を下ろし……。
するっ
「!!」
短パンに手をかけると、それを下ろそうとした。
「なっ! ダメだっ! 何するんだっ!」
「だ、だって、こっちが本番なんだって!」
「本も番もなにもあるかっ! バカ、やめろっ!」
しばらく抑えたり引っ張ったりの格闘になったが、いかんせん、私はもう疲れていた。
「くっ」
脱がさせまいとうつぶせになったところに、
ずるっ
「なっ!」
マコトにお尻を突き出す形で、下着ごと下ろされてしまった。
自然、犬みたいな格好になった。
「あ……」
「うわっ」
「見るな、バカ野郎!」
「そこ」は自分でもよく見たことのないところだった。
だけど、その言葉が届くか届かないかの前に、マコトの指が私の体に触れた。
くにっ
「いっ……!」
「おおっ!?」
「な、なにしてるんだっ?」
「チアキ、なんかチアキから出てる」
「え……?」
マコトに手を取られて、私は「そこ」を触ってみた。
ぬる……
「!!」
な、なんだこれ……?
汗……じゃないよな?
おしっこ……でもないよな?
「チアキっ、これは濡れてるんだよ!」
「ぬ、濡れてる……?」
なんだそれ。なんで私がそんなことにならないといけないんだよ。
「わかったから、もうカンベンしてくれ……」
とにかく、この恥ずかしい格好をなんとかしたかった。
ホントに、なんで昨日から、こんなにツイてないんだよ……。
「ここからだよチアキ!」
「なに……?」
ぬちゅるっ
「ふああああっっ!?」
マコトの顔が、私の「そこ」についた。
「あ、あ……あぁ……」
今までに感じたことのない感覚。
くすぐったいとも、こそばゆいとも違う感覚だ。
ちゅぱっ、ぬちゅ、ぐちゅっ、ちゅう、ちゅう……
「ああっ! あぁっ! もう、ダメだ……ああああっ! やだ、ぁ……」
相変わらず、マコトの舌はすごい勢いで動く。
「あああぁぁっ、ひあっ! あっ! ふぁあ……うぁっ、あっ、はぁっ」
舌が動くたびに電気が走り、私はもうその感覚を認めてしまっていた。
「ああ……う、ああぁ……マコト……気持ちいいよぉ……」
その言葉を出してしまってから、あとの私はもう、素直だった。
「ああっ! あんっ! ぅあんっ! あっ! ああっ! あんっ! あああぁ……」
ハルカ姉さまも、カナも、これをしていたんだ。
二人はもう、大人だから知っていたんだ。
「あっ! うぁっ、はっ、はぁっ、はっ、はぁ、やっ、ああっ、はぁ、はぁっ……!」
なんで私に教えてくれなかったのか、やっとわかった。
これは、知っちゃいけないことなんだ。私はまだ、知らないほうが良かったんだって思った。
「あああぁっ! もうっ、もうやめ……うううぅぅぅ……ああっ! うっ、あっ、あんっ!」
自分が変になりそうで怖かった。だから、もうしないから許してくださいって思った。
「ああっ! あ! あ、あああああああぁぁぁぁ……あああーーーーーっっっ!!!!」
ぷしゅっ
「え?」
ぷしゃああああああああっ
「ち、チアキ、おしっこ……」
「ああっ、ぐすっ、あっ、あっ、ごめん、ごめんなさい……」
最後の一滴を出し終わるま止まらなくて、マットをびしょびしょにして、ようやくおしっこは止まった。
「ううっ、うっ、えぐっ、あ、うああああん……」
だけど、目から出る液体は止まらなくて、私が泣き止むまで、マコトは呆然としていた。
「チアキちゃんごめんね。もっと早く気がついてればよかった」
「あーん、チアキちゃんゴメンねー!」
それからほどなくして、体育倉庫には先生が迎えに来てくれた。
「チアキちゃーん!」
「ごめんねチアキちゃん!」
「い、いや、ホントに大丈夫」
さっきから首が重い。
さすがに、人間二人を首にぶら下げるのは、大変だと思った。
「チアキったら、遅いから心配したんだよ」
「まったく、体育倉庫で男と二人とは、何やってたんだか」
ハルカ姉さまとカナも迎えに来ていた。
帰りが遅いのを心配したハルカ姉さまが学校に連絡してくれたみたいだ。
「…………」
さっきから、マコトがずっとこっちを見ているのは気がついてた。
だけど、なんて言ったらいいものか、私にもわからないんだよ。
こういうときは、男のほうから声をかけるべきじゃないのか?
「…………」
「おい、マコト」
「はいっ」
マコトの母親も迎えに来ていた。
ちょいちょいと手招きして、マコトだけ呼び寄せる。
「な、なんだっ!? その、ごめんなっ」
「いや、頼むから謝らないでほしいんだよ。気づかれると困るんだ」
「はいっ」
あー、もう、どうしたものか……。
「おい」
「はいっ」
「今日のことは絶対誰にも言うなよ」
「はいっ」
「それで、お前はどうしたいんだ」
「えっ?」
マコトは怒られると思っていたのか、きょとんとした顔をした。
「まさか、あれだけして何も考えてないとは思ってないだろうな?」
「お、思ってないよっ!」
「じゃあ、どうするんだ」
「わかりません!」
やっぱりバカ野郎だ。
「お前は、ハルカ姉さまが好きなんだろう?」
「いや! そんなハルカさんが好きとかそんな大それた!」
「声が大きいよ。それで、私はどうするんだ」
「へ? チアキ?」
「私のことはどうでもいいのか」
「い、いや! そんなことないよ!」
「うん」
ハルカ姉さまとカナがこっちを不審そうに見ている。
早く話を切り上げよう。
「マコトが私のことを一番にするなら、今日のことは許してやろう」
「す、するよっ! チアキのこと大事にするよっ!」
「ただし!」
私はマコトを睨みつけた。
「私はバカ野郎は嫌いなんだよ。だから、私より頭のいい男になるのが条件だ」
「な、なるよっ! 俺、がんばるよ!」
「それまで、私以外とこういうことをするのは禁止だからな」
「うん! もうしないよ!」
「それと、誰かにしゃべったら、今の約束もなしだ」
「はいっ」
「よし」
別にマコトのことは好きでもなんでもないけど、これでクラスにバカ野郎がいなくなるだろう。
「じゃあ、帰るか」
「うん」
私はハルカ姉さまの元に戻った。
「おやおや、チアキもお年頃になったもんだ」
「チアキ、何を話してきたの?」
「ええと……」
さて、なんて言おう。
カナがにやにやしながらこっちを見ていた。
「謝るくらいなら、最初からするなと言う話を」
「!!!」
「謝るくらいなら? なにそれ?」
「ち、チアキさん? ちょっとこっちで話でもしようじゃないか」
「確かめるくらいなら、最初から言うなってことを」
「???」
「チアキ様っ! 本日はいかなるおやつをご所望でございましょうかっ!?」
「疲れたから、甘いものが食べたいよ」
「ハルカ、私は一足先に帰って、疲れた妹のために一個300円くらいするプリンでも買っておいてあげることにするよ」
「そう? カナは優しいね」
「ははははは。まあ、かわいい妹のためだからねっ!」
「おい、ハルカ姉さまの分も忘れるなよ」
「承知しました!」
「???」
そのまま、私はハルカ姉さまと帰宅した。
途中、ふと空を見上げると、雨はすっかり上がって雲の間から星が見えていた。
私が、少し大人になったと知ったら、お父さんとお母さんはどんな顔をするんだろう。
そんなことを考えながら、ハルカ姉さまの手をしっかりと握った。
ツイてないと思っていたけど、今見た星空は……。
なんだか、久しぶりの人に会えたみたいで、すごく心地よかった。
「チアキ様、パステルのプリンでございます」
「明日も」
「そっ、そんなバカな! チアキさま、どうか、お慈悲をっ! お慈悲をっ……!」
「藤岡にでも頼め」
「! そうか! よく考えたら、私だけのせいじゃないじゃないかっ! 連帯責任だっ!」
「藤岡君がどうかしたの?」
「い、いや! なんでもない! なんでもないぞ!」
「そう。ところでカナ。晩の牛乳2リットル。はい」
「ぷおおっ!」
「ざまあみろ」
そして、今日も我が家の夜はいつも通りだった。
「藤岡っ! ふ、藤岡も半分の1リットルは手伝えよーう! えっ、えっ」
そんなみなみけ。

 

 

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