最近、妙な気分になるときがある。
ムカムカというか、モヤモヤというか。
胸が詰まるような、嫌な気分だ。
「(………なんだろうね。)」
どうしてなのかは、解からない。
けれど、そんな気分になるときは、いつも決まって、藤岡が家に来ているとき。
それから。
「………この歌は、好きか?」
「うん。好きだな、この人の歌。」
「………私もだ。」
決まって………チアキが、藤岡の膝の上に居るとき。
2人が、楽しそうに話をしているときだ。
「………どうした?」
「へ?」
チアキが、不思議そうにこっちを見ている。
慌てて、睨むように見つめていた視線を外す。
「あ、いや………別に。」
適当に誤魔化して、視線をテレビに移す。
「あ………もう、こんな時間だ。」
「あら、すっかり遅くなっちゃったわね………お家に、連絡した方がいいかしら?」
「いえ、お構いなく。」
藤岡がチアキに声を掛けて、チアキが少し寂しそうに立ち上がって、そして、藤岡を
3人並んで玄関で見送る。
「じゃぁ、お邪魔しました。」
「また、いつでもいらっしゃいね。」
「………今度は、いつ来るんだ?」
「解からないけど………また、来るよ。」
藤岡は笑顔でそう言って、玄関のドアノブに手を掛ける。ドアを開ける。
そして………去り際に。
「じゃぁ、南、また明日。」
私に向かってそう言って、同じように、微笑む。
どうしてなのか、解からないけれど………ムカムカとモヤモヤが、一気に吹っ飛ぶ。
「お、おう。またな。」
私は笑わずに、いつもの様に、ぶっきらぼうに別れの挨拶を済ませる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「番長は、本当にいい人だよ。」
「………。」
「いや、いつまでも『番長』と呼ぶのも、申し訳ないな。」
「………。」
リビングでテレビを眺めている隣で、チアキはずっと藤岡の話をしている。
テレビの中で、好きな歌手が新曲を歌っている。それなのに、その音が全然頭に入って
来ない。
ムカムカが、モヤモヤが、再発する。
「一緒に居て、凄く落ち着くんだよ。」
あのチアキが、いつも私に毒ばかり吐いているチアキが、そんなことを言っている。
見ると、何か、少し顔が赤み掛かっているように見える。
「(………ッ!)」
それを見た瞬間、私の中で、何かが弾けた気がした。
乱暴にリモコンを掴んで、テレビの電源を落とす。中途半端な音を残して、テレビが
黙り込む。
「………?」
私はそのまま、チアキの顔も見ないで、早足でリビングから出て行く。
「おい、見てたんじゃ………?」
「うるさいよ!!」
叫ぶように言って、私は、一目散に自分の部屋に駆け込んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

カナが去った後のリビングに、ハルカが顔を出す。
「今の、カナの声………?」
心配そうな声で言いながら、ハルカはチアキの顔を伺う。
チアキはチアキで、何がなんだか解からない、というような顔をしながら、ハルカの
顔を見つめ返す。
「………そっとしておいた方が、いいんじゃないですか?」
「そうかしら………。」
2人はしばしお互いの眼を見つめた後、小さく頷いて、視線を外す。ハルカは台所に
戻り、チアキはさっきまで見ていた番組の続きを見ようと、投げ出されたリモコンを
拾う。
テレビの電源が入る。カナの好きな歌はまだ続いている。眼に痛いほどの赤い照明が
照らすセットの上で、4人組の男性ユニットが、歌っている。
部屋に入って、そのまま、電気も点けずにベッドに倒れ込む。
「………。」
眼を閉じると、なぜか、真っ暗な中に藤岡の顔が浮かんでくる。
「(………なんだい、顔なんか赤くしちゃって。)」
続いて、チアキの顔と、声が浮かんでくる。
藤岡の話をするときの、あの楽しそうな声。赤みが掛かった頬。
「(なんだってんだよ、全く………。)」
今度は、2人が一緒に出てくる。藤岡の膝の上に乗って、お気に入りの『ふじおか』
を抱えて、幸せそうにテレビを眺めるチアキ。楽しそうに話しかける藤岡。
「(ホントに………。)」
そして。
「(どうしちゃったんだろう。)」
考えることが、切り替わる。
「(どうしたんだよ………私は。)」
またいつの間にか、心の中に浮かんでいるムカムカとモヤモヤ。
息苦しいような、妙な感じがする。喉の奥に何かが詰まっているように、胸が苦しい。
「(なんなんだよぉ………変だよ。どうしたんだよ。)」
行き場の無い気持ちが湧いてきて、どうしようもなくなる。何も無い空中で両手を
振り回す。心は、晴れない。
自分の気持ちが、なんだか、理解できなかった。
藤岡が自分じゃなくてチアキを構っていると、どうにも面白くない。
2人が楽しそうなのを見ていると、声が詰まって何も言えなくなる。
チアキが藤岡のことを楽しそうに話すのが、なんだか頭にくる。
独りでそれを思い出して、またムカムカモヤモヤする。
そして………いつも、無意識のうちに。
『もしチアキじゃなくて、私が藤岡膝に座っていたら。』
そんなことを、想像してしまう。
そのくせいつも、帰り際に藤岡が笑顔を見せると、それが一瞬どこかに消えてしまう。
学校で話をしたら、前の日の嫌な気分を全部忘れられる。
「(………藤岡………。)」
理由も解からないまま、無意識に、心の中で名前を呼ぶ。
心臓の音が、凄く、大きく聞こえた。
そして。
「………カナ?」
「!」
部屋の前で、ハルカの声がする。
「お風呂、沸いたけど………。」
私は、少しベッドの上で固まってから。
「………今行くから。」
出来るだけいつも通りの声で、返事をした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その翌日。
カナはいつも通り、チャイムが鳴る直前で教室にやって来る。
「あ、おはよー。」
ケイコや他のクラスメイトが挨拶をする。カナもいつも通りに挨拶を返す。
カナは自分の席に着いて、鞄の中身を机に移し変える。黒板を見て、そういえば今日は
自分が日直だった、ということを思い出す。
そして。
「あれ?」
いつもはとっくに席に着いているはずの藤岡の姿が無い。
教室を見渡す。いつも話をしている男子生徒の話の中にも、その姿は無い。
「おい、藤岡来てないのか?」
男子生徒の輪に、カナが声を掛ける。
「え?知らないけど。」
どうやら、誰も理由を知らないらしかった。
やがて、藤岡が不在のままホームルームが始まる。出席の確認が終わる。
「ええと、藤岡君は今日はお家の都合で遅刻すると連絡がありました。」
担任の先生が言う。
「3時間目には出席………と。はい、では、何か連絡のある人は居ますか?」
その後、何人かの生徒が、委員会や何かの連絡を済ませて、ホームルームが終わる。
チャイムが鳴る。

昨日の気分を引き摺ったまま、私は3時間目を迎えた。
直前に、今日の3時間目は音楽から体育に変更になったと連絡があった。ほとんどの
生徒が喜んで、一部の生徒は文句を言いながら、それぞれ体操服に着替える。私は、
喜んだ側だ。
今日は、体育館でバスケットボールをやるらしい。
「ええ、じゃぁ欠席が3名………。」
体育の先生が、出欠の確認を終えようとしたとき。
「あ、藤岡君は遅刻の連絡があったって言ってましたー。」
誰かが、そう言った。担任はそれを聞いて、名簿に何か追加の書き込みをする。
「ええと、じゃぁ、体育になったのは解かってるのかな?」
そして、それを聞いて………私は、忘れていたことを思い出した。
「あ………。」
授業の変更のことを黒板に書いてくるのは、日直の仕事だ。今の今まで、すっかり
忘れていた。このままだと、藤岡は別のクラスの音楽の授業に言って赤っ恥をかく
ことになる。
「スイマセン、書いてくるの忘れました。」
苦笑いしながら手を上げる。
「すぐ書いて………。」
「あ、なんなら私が代わりに!」
『書いてきます』と私が言うよりも早く、何故か、全く関係ないリコが名乗り出る。
そしてすぐに。
「いや、あなた準備運動の当番でしょう。」
と、先生が指摘した。リコが、心底悔しそうに引き下がる。
「じゃぁ、南さん、お願いします。」
「はーい。」
私は急いで体育館用のシューズを履き替えて、教室に戻った。

教室に辿り着いて、藤岡は、鞄の中身を机に移し変えた。
「(………音楽か。)」
時間割を確認して、音楽の教科書を手に取る。机の横にぶら下がったリコーダーを
手にして、教室を後にしようとする。
と、そのとき。
『ガラッ。』
教室の、後方のドアが開く。
「おう、ギリギリ間に合ったか………良かった。」
藤岡が、視線を向ける。ドアの向こうには、体操服姿のカナが立っていた。
「南………?」
一瞬、藤岡の胸が高鳴る。そしてすぐに、そこにカナが居ることと、カナの格好を
見て、おや、と不思議そうな顔をする。
「………えっと………?」
「えっと………3時間目、体育になったんだよ。」
「あ………そうなんだ。それで………。」
「急げよ。体育館だから。」
「解かった、有難う。」
藤岡はそう言って、微笑む。
その笑顔が、いつもの様に、カナの中でくすぶる想いを消し去っていく。
「(………ッ?)」
………その、はずだったのだが。
「(なんだよ………?)」
すぐにカナは、自分の中の異変に気付く。
鼓動が、少しずつ大きくなっているのが解かる。顔が、火照ってくる。
すぐに体育館に引き返すはずなのに、身体が、そちらに動こうとしない。
「………?」
教室で、藤岡と、2人きり。
自分の置かれているその状況を意識すると、とんでもなく、恥ずかしいような、照れ
くさいような、いつもと違った妙な気持ちになる。
ごくり、と1度、カナの喉が鳴る。
「………。」
足が、1歩踏み出す。
体育館へと続く廊下ではなく………目の前の、藤岡の居る教室の中へ。
「………南?」
後ろ手に、ドアを閉める。カナがゆっくりと、藤岡の席に近づいていく。互いに互いの
眼を見つめ合ったまま、徐々に、2人の距離が縮んでいく。
やがてカナは、もう1歩でぶつかってしまう距離まで、藤岡に接近する。少しだけ上に
ある藤岡の眼を、なお、見つめ続ける。
「………。」
「………み、南?」
「なぁ、藤岡。」
「え?」
息が掛かる程の距離で、カナが藤岡の名前を呼ぶ。また、藤岡の胸が高鳴る。
そして。
「………ちょっと1回、座ってみて貰えるか?」
「………え?」
カナは突然、そんなことを呟いた。
「座る………って?」
「だから、その、椅子でいいからさ。ちょっとだけ。」
「………なんで?」
「まぁ、ちょっと。ちょっとね。」
ちょっと、を何度も繰り返しながら、カナは藤岡の席の椅子を指差す。理由も何も
解からないが、藤岡は言われるがままに、自分の席に腰を降ろした。
すると。
「よいしょ。」
「え?」
カナは突然、藤岡の目の前の机を、押し退け始める。藤岡の荷物もろとも机は横に
押し退けられ、綺麗に並んだ列が乱れた。そして藤岡の前には、机も何もなくなる。
そして、その後。
「………ッ!?」
カナは突然、藤岡の前に立って、藤岡の膝の上に腰を降ろした。
「ちょっ、み、みな、み………!?」
思わずバランスを失い掛けて、藤岡は慌てて体勢を立て直す。自分に向かって体重を
掛けているカナの身体を受け止めて、足を踏ん張る。
藤岡のお陰で、どうにか椅子ごと倒れるのだけは免れることができた。
「っと、ごめん。」
「あ、いや………その………。」
藤岡は、危うく倒れそうになったのと、突然の展開に混乱しているのとで、上手く
声が出せないで居た。
今は、カナは膝の上というよりは、藤岡の足の間に座っている。教室の椅子なので、
座れる部分はそれほど大きくない。うっかりすると、前に滑り落ちてしまいそうだ。
「(………〜〜〜ッ。)」
藤岡は、心臓がまるで耳のすぐ後ろで鳴っているかの様な感覚を覚えた。自分に寄り
掛かるカナの、綺麗な黒髪、細い身体、白いうなじ。密着する自分の胸板と、カナの
背中。意識するごとに、脈が強く、速く、大きくなっていく。やがて、全身が脈打って
いるような錯覚に陥る。
やがてカナは、頭をこてん、と藤岡の肩に預ける。
「あの、南………?」
無理にカナをどかすことも出来ず、藤岡は自分の席に腰掛けたまま、硬直する。
すると。
「………やっぱ、落ち着かないね。」
「え………?」
「いや、チアキが気に入ってるみたいだから、どんなもんかと思ったんだけど。」
「え?あ………それで………?」
「駄目だ………ちっとも、落ち着かない。」
カナはそう言って、自分の身体を支える藤岡の右手を捕まえた。
掴んだまま、カナの手はゆっくりと藤岡の右手を導いていき、そして。
「ん………。」
「は………?」
やがて、導かれた藤岡の手は………カナの、胸元に押し当てられて、止まる。
しかも、それは服の上ではなく。カナの、体操服の中。下着の、更に下。
直に、胸に押し当てられている。
決して大きくない膨らみと、その先の小さな突起を、藤岡の掌が感じ取る。
藤岡は一瞬、自分の中で、さっ、と熱が引いていくような感覚を覚えた。
そして、直後。
「………ッッッッッッ!!!??」
引いた熱が、何十倍にも増幅されて押し寄せる。
顔が、燃えるように熱い。頭が真っ白になって、何も考えられなくなる。身体中が
強張って、思わず、導かれた手にも力が入ってしまう。
「んんッ………!?」
途端に、カナはピクリと跳ねて、呻くような声を上げる。
「あ、ご、ゴメン………ッ!?」
藤岡は、理由も解からないまま、とにかく謝る。
カナはしばらくの間、ピクピクと、小さな震えを繰り返してた。
そして………やがて、身体の落ち着きを取り戻し。
「………なぁ。」
「え?」
「解かるか………?」
普段からは想像もつかない、消え入るような声で、カナが呟く。
「私………今………。」
「な、何………?」
「物凄く………ドキドキしてるんだよ。」
「………ッ!」
言われて、藤岡はハッとする。
確かに、それどころでは無かったので気付かなかったが、藤岡の掌には、胸の膨らみ
の上からでもハッキリと解かるほど強い鼓動が伝わっていた。
藤岡が、後ろからカナの横顔を覗き込む。その頬は、明らかに紅潮している。
「変なんだ………自分でも、解からないんだよ。なんで、こんなになるのか。」
声は、なおもか細いままだ。
「でも、なんか………今も、変なんだ。お前と2人きりだと思ったら、急に………。」
「南………?」
「チアキと一緒の所、思い出しちゃって………なんか、我慢できなくなって。」
「………っ。」
「どうしちゃったんだ、私………おかしいよ。なんだよ、コレ………。」
しかし声の弱々しさとは逆に、藤岡の手を抑えるカナの手には、徐々に力が込められて
いく。やがてそれは、握り締めるような形になった。
「こんなこと、して………。」
言葉とは裏腹に、カナは決して、胸に押し当てられた手を逃がそうとはしなかった。
規則正しいリズムで、鼓動は藤岡の掌に伝わり続けている。
「なぁ………藤岡………?」
「………何?」
やがて。
「私………変なのか………?」
カナは、搾り出すようにそう言って、下を向いた。
「こんなの………。」
2人だけの教室に、沈黙が訪れる。校庭で体育の授業に励む生徒達の声が、遠くに
聞こえる。鼓動は、弱まらない。
そして、しばしの間が空いた、その後。
「………南。」
それまで事情を飲み込めず混乱するばかりだった藤岡が、突然、背後からカナの身体
を抱き締めた。
「ッ!」
カナは、眼を見開いて驚く。その拍子に、目尻に浮かんだ涙が、つ、と頬を伝う。
「変じゃない。」
「え………。」
一言そう言って、藤岡はカナを更に抱き寄せ、自分の胸をカナの背中に押し付ける。
そしてその直後、カナが何かに気付いて、声を上げた。
「あ………?」
首を一杯に回して、藤岡の様子を伺う。
「俺だって………ドキドキしてる。聞こえるだろ?」
「………ッ!」
「南と居て………南に触って、俺も………死ぬ程ドキドキしてる。」
「藤岡………っ。」
何かが、カナの頬を伝う。
「南が、俺のこと考えてドキドキしてるんだったら………俺、凄く、嬉しいよ。」
藤岡の指が、伝った物を拭う。
「………は、恥ずかしいこと、言うんじゃないよ………。」
カナが言って、藤岡が微笑む。
「えっと、南………ほ、ホントに、大丈夫?」
藤岡が、カナに尋ねる。2人は藤岡の椅子と、もう1つ隣の席から拝借した椅子に
それぞれ座って、お互いに向かい合っている。
体操着の上着を、首の所まで捲くった状態で、カナがじれったそうに藤岡を見る。
下着は付けておらず、小さな膨らみとピンク色の突起が、露わになっている。
「お、女が、いいって言ってんだから、恥かかせるんじゃないよ………。」
カナは顔を真っ赤にしながら、怒ったような口調で言った。
「なんだい………さっきは、ちょっとカッコ良かったくせに………。」
「え………?」
「なんでもないから!や、やるなら、早くしなさいよ!」
藤岡が急かされるようにして前に屈み、剥き出しのカナの胸に顔を近づける。
「じゃ………い、行くよ?」
1度確認してから、藤岡は慎重に、カナの胸に両手を添えた。
「………ッ。」
藤岡が触れた瞬間、カナの身体が小さく震える。藤岡は手を添えたまま、カナの胸の
膨らみを、円を描くように揉みほぐしていく。
「んん………う………ッ!」
力の加減で、掌の中心の辺りに、硬くなった突起が当たる。そしてその度に、カナの
身体がまた震える。顔の赤みが増していき、息も徐々に荒くなる。
「だ、大丈夫………?」
「い、いちいち聞くな、バカ………ッ!」
カナの様子を気遣いながら、しかし藤岡は、少しずつ変化していくカナの様子に、
興奮を抑えきれずに居た。藤岡の中で、何かが少しずつ燃え上がっていく。藤岡
呼吸もまた徐々に深く、荒くなり、やがて藤岡はその行為に没頭していく。
「や、ぁ………ひゃん………!」
「み、なみ………南っ………!」
藤岡は、いつの間にか意図的にカナの胸の突起を刺激し始めた。最初は掌でこねる
ようにしていたのを、指で押し、弾き、摘むようになる。その度にカナを襲う震え
を、まるで楽しんでいるようにも見える。
「あ、うん………ふ………ぁッ!」
そして、次に藤岡は………舌を、カナの胸に近づけていく。
「あ………ちょ、それ、は………っ。」
カナに何か言われるそりも先に、藤岡は、柔らかい舌でカナの突起に触れた。
「ひあぁっ………!!」
一層強い震えが、胸を掴む手を伝って藤岡に届く。藤岡はカナの突起の周りを丹念に
舐めあげて、舌先でそれを弾く。もう一方の胸へ刺激を送るのも、忘れてはいない。
舌での愛撫が一通り終わり、今度は、唇で突起を挟み、赤ん坊のように軽く吸う。
「ひっ、あ………!」
カナの身体が、ぶるぶると震えながら反り返る。
「そ、それ………だ、ダメだ、ヤバいって………ッ!!」
哀願するような声で言いながら、しかしカナは、決して藤岡を拒もうとはしない。
藤岡も、カナの声など意に介していないように胸を吸って、離す。突起の周りが、
さきほどより少し赤くなっている。
カナが、足をもじもじと擦り合わせる。藤岡はさらにカナに迫り、今度は胸の突起に
軽く、優しく、歯を立てた。
「ひゃぁんッ!?」
カナがそれまでに無いような声を上げ、ビクン、と大きく跳ねる。
「あ………ご、ゴメン………?」
思った以上の反応に、藤岡はとっさにカナから離れ、思わず謝ってしまう。
「あ、いや………つ、続けていいから………。」
「でも………。」
「い、いいから………空気読めよ、バカ野郎!」
言われて、藤岡はまたカナの胸に口付けをする。歯を立てる。カナはずっと体操着を
捲くっていた手を離して、両手で、藤岡の頭に抱きつく。
藤岡の動きにもいよいよ迷いが無くなり、藤岡はそっと、空いた手でカナの足に触れる。
「ん………。」
カナは1度ピクッ、と反応する。開いた脚の内側を撫でるようにして、藤岡は、手を
足の付け根に近づけていく。藤岡の手が近づくごとに、カナの背筋を伝う震えが大きく
なる。
そして………藤岡の指が、ブルマと下着越しに、カナの秘所に触れる。
「ひゃ………ぁッ………!」
瞬間、カナの身体の震えは最高潮に達した。
「ふ、ふじ、おか………そこ………っ。」
その反応を見て藤岡はもう1度、同じ場所を指で触る。また、カナの身体が震える。
藤岡は半ば我を忘れて、初めて触れるその感触に浸った。最初は軽く擦るようにして、
やがて、指を押し付けて、更に押し付けたまま指を前後に動かす。
「あ、あっ、だ、ダメ………そ、それ、ダメだって、藤岡ぁ………ッ!!」
これ以上無いほど切ない声を上げながら、カナは藤岡の頭を抱きかかえて、ほとんど
のしかかるように体重を掛けている。指が刺激を送るたびに、痙攣のように身体が
ビクビクと震える。息は、荒い。
藤岡はやがて、カナの秘所を攻める指先に、何か、湿ったような感触を覚えた。見る
と、ブルマの生地に、じんわりと染みが広がっている。
「南………。」
藤岡は指を離し、カナのブルマと下着に手を掛ける。
「ふぇ?ふ、藤岡………!?」
「ちょっと………腰、上げて………。」
そう言って藤岡は、片腕でカナの身体を抱きかかえて、もう一方の手でブルマと下着
を、カナの膝まで引きずり降ろした。
藤岡が腕を離して、カナが再び、ぺたん、と椅子に腰掛ける。
「ちょ、これ嫌だ、恥ずかし………ッ!」
カナは涙を浮かべながら、薄く毛の生えた秘所を必死で隠そうとする。しかし藤岡は、
カナの手の間に自分の手を差し入れて………。
「や、ダメ、ダメだって………!?」
今度は、直にカナに触れる。
「ひゃぁ………ん………ッ!!」
指先が、ほんの少しだけ、カナの中に入り込む感触がする。そこはカナの愛液で湿って
いて、そして、驚くほど熱い。
「なんか、南のココ………す、凄い、濡れてる………。」
「や………嫌だ、言うなよぉ………!」
藤岡は、慎重に指をカナの奥へと進めて行く。進むごとにカナは細い声で喘ぎ、身体
を震わせる。やけに大きい鼓動が聞こえるが、それはもはや、どちらの胸の音なのか
解からなかった。
試しに藤岡は、差し込んだ指を、中で曲げる。くちゃ、と小さな水音がする。
「ふああぁぁぁぁぁ………ぁっ!!?」
途端に、カナの身体が仰け反る。カナは眼を半開きにして、歯を食い縛り、顔を天井
に向けて震える。
「み、南………?」
カナが、またぐったりと藤岡に体重を掛ける。眼の焦点が合っていない。口の端から、
つ、と一筋の涎が流れる。
「ふ、じ、おか………っ。」
そして蕩けるような甘い声で、名前を呼ぶ。
普段あんなに元気の良いカナが、自分の目の前で見せている信じられないような姿に、
藤岡は異様な興奮を覚えた。
また、指を動かす。勢い付いた藤岡は一心不乱に、何度も出し入れを繰り返す。中で
指を曲げ、回して、乱暴とも言えるような指遣いでカナの秘所を掻き回す。
くちゃくちゃという水音は次第に大きくなり、教室中に響き渡る。
「あっ、ふあぁっ………ふ、藤岡、ふじ、おかぁ………ッ!!」
「凄い………どんどん、出てくる………。」
「そ、そんなの………だって………。」
出し入れする毎に溢れてくる自分の愛液を見つめながら、カナは赤い顔を更に真っ赤
に染める。カナの中から溢れたそれが、椅子の上に小さな水溜りを作っている。
「ふ、藤岡に、こんなことされたら………仕方ない、だろぉ………。」
「………〜〜〜ッ!」
切ない声でそう言われて、藤岡の中で、何かが弾け飛ぶ。
「南ッ………!!」
「ん、ふ、藤岡………藤岡………ッ!!」
藤岡の動きが加速する。カナは、もはや完全に藤岡に身体を預けている。
「や、な、なんか………来る、うあぁ………ッ!?」
やがて、背中を駆け上がってくるような快感にカナの身体が震える。
カナは眼の前の藤岡の頭にしがみつき、きつく眼を閉じる。
「南、南………ッッ!!」
「あ、あ、あぁ、あッッ………。」
そして。
「うぁッ………〜〜〜ッッッ!!!」
全身をブルブルと震わせ、カナは、藤岡の頭を掻き抱いたまま、果てる。
糸の切れた人形のように、カナの身体はバランスを失う。藤岡が、それをしっかりと
抱き止める。2人は抱き合ったまま、しばしの間見詰め合って、そして………どちら
からともなく、唇を重ねた。
そして
「………なぁ?」
「ん?」
長いキスの後、カナが尋ねる。
「そ、その………お前は、大丈夫なのか………?」
「………何が?」
「だから、その………こ、コレ………。」
カナはおずおずとそう言いながら………藤岡のズボンの前に、手を触れる。
「あ、いや………。」
そこにはズボンの中でパンパンに膨れ上がった、藤岡の物があった。
「お前、コレ………く、苦しくないか?」
「い、いや、その………オレは、大丈夫だから。」
藤岡は、ひきつった顔で笑う。
それに対してカナは、いたって真剣な表情で藤岡の顔を見つめた後、意を決したよう
に、ズボンのチャックに手を掛ける。
「い、いや、南………!?」
「お前ばっか、ズルいだろ………私だって、何かしたいんだよ。」
「で、でも………!」
「お前がしろっていうなら、私………なんでも、してやるから………!」
カナはそう言いながら、今度は逆に、藤岡に迫っていく。
藤岡が抵抗しないのをいいことに、カナは、藤岡のズボンのチャックを下ろし、中で
脈打っていた藤岡の物を、外に解放する………。

と。
その、直後。
『ガタン。』

教室の、鍵の掛かっている方のドアが、音を立てる。
「ッ!?」
「え………!?」
2人が同時に、ビクッ、と震える。
「あれ?………南さん、居る?」
ドアの向こうに居るのは、体育の担任の先生だ。
「う、うわ………ど、どうしよ………!?」
「と、とりあえず南、あの、ふ、服だけなんとかして………!!」
カナはふらつく身体で必死に体操着の乱れを直し、藤岡も自分のズボンを直して、更に
椅子を元通りにする。。
人影が、鍵の掛かっていないドアに移動する。
そして。
「南さ………あれ、藤岡君?」
「あ、せ、先生………。」
藤岡は、ふらつくカナの身体を支えながら、言う。
「あれ、南さん、どうかした?」
「あ、はい、その、俺さっき来たんですけど………。」
「さっき?」
「は、はい。で、そしてら………南が、具合悪そうに、机のところに居て、な?」
とっさに、藤岡はそう嘘を吐く。
「え?………あ、は、はい………。」
「え、そうなの?南さん、大丈夫?」
「あ、その、なんか………あ、頭が、痛くなっちゃって、その………。」
カナが、話を合わせる。
「そう、じゃぁ、保健室に行った方が………。」
「あ、はい!大丈夫です、俺、連れてきますから!」
「え、でも………。」
「先生は、早く授業に戻った方が………俺も、保健室行ったらすぐ着替えて行きます。」
「あ、そう?じゃ………お願いしようかな。南さん、大丈夫?」
「は、はい、大丈夫です………。」
「うん、じゃぁ………藤岡君、よろしくね?」
「はいっ!」
2人の話にどうやら納得したらしく、体育の担任は、以外にあっさりと教室を去った。
「危なかった………っ。」
「あ、アリガトな、藤岡………。」
また2人きりになり、2人は、額の汗を拭った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その後、藤岡は雑巾で簡単に水溜りの後始末をして、カナを保健室に送り届ける。
カナは、一応は頭痛で体育の授業を休むことになっているので、保健室のベッドに
寝て居なければならない。カナがベッドに入るのを見届けて、藤岡は言う。
「………じゃ、俺、体育の方行くから。」
「あ………。」
カナが、何かを言いかける。
「ん………?」
「あ、その………えっと………。」
カナは、顔を真っ赤にして俯いた。
「こ、今度は………そ、その………。」
その様子に藤岡も、自分たちがさっきまでしていた行為を思い出してしまい、赤面する。
「………やっぱ、後でいいや。」
カナが呟く。
「そ、そう………。」
「うん。」
「………じゃ、また………後で、ね。」
「ああ………。」
そうして藤岡は、保健室の先生に二言三言話しかけて、保健室を去る。
カナが独り、ベッドに取り残される。
「………………。」
眼を閉じると、藤岡の顔が浮かんでくる。
なんだか、妙な気分になる。
「(………なんだろうね。)」
嬉しいようななこそばゆいような、妙な気分に浸りながら、カナは、シーツに包まった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

保健室を去り、藤岡は教室への道を辿る。渡り廊下を越えて、教室に辿り着き、ドアに
手を掛ける。
しかし。
「(う………。)」
自分の中の異変に気付き、藤岡は動きを止める。
藤岡の中で燃え上がった衝動は、放出されることなく、藤岡自身の中で燻ぶったままだ。
ドアの前で立ち止まったまま藤岡は考える。
「(………体育の前に………。)」
そして。
「(ち、ちょっとだけ………。)」
そのまま踵を返して、藤岡は、男子トイレに向かった。
 

 

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