集中できない。鉛筆が進まない。
「(連立が、だから、この、移項して………あー、もう………。)」
全然、全く、これっぽっちも。問題の内容が、頭に入って来ない。
「(こっちと、こっちが………えーと、だから………。)」
ふとした瞬間に、頭の中に割り込んでくる映像。
玄関のドアを開けた途端に飛び込んで来た………有り得ない、光景。
「(………綺麗だったな………。)」
眼の前でいきなり、年上のお姉さんの、下着姿を見せ付けられて。オレ達と同い年の
男子の中に、平気で居られる奴なんて居るわけがない。居たとしたらオレは、そいつの
ことを同じ男子だとは認めない。
「(………下着………お姉さんって、中学生だっけ………。)」
意識が流されそうになって、ハッとする。駄目だ駄目だ、と自分自身に言い聞かせて、
オレはぶんぶんと頭を振る。が。
「(カナさんって、名前なんだ………。)」
振り払った端から再び、オレを一瞬で虜にしたその存在が、頭の中を支配していく。
今度は、それに抵抗する気も起きてこない。
長い黒髪、細くて綺麗なシルエットに………白くて、少しゆとりのある下着だけを身に
付けた、普段なら絶対に見ることが出来ないような、女の人の姿。
ウチの姉ちゃんは、前からその辺は割と気にする方だから………いや、もちろんそれ
以前に、対象外なんだけど………とにかく、女の人のそんな姿を、オレはマトモに見た
ことが無かった。
ペンが止まる。白いノートに引かれた罫線の上に、まぶたの裏に焼き付いて離れない、
オレにしか見えない映像が映し出される。
「シュウイチ?」
「………………へ?」
突然、隣でノートを丸写しにしていたマコトが声を上げる。
「どうした、難問か?」
「あ、いや、その………そういうわけじゃ。」
「それともお前も、バカチームの仲間入りなのか!?」
「そんなワケがあるか。バカも休み休み言えバカ野郎。」
まさか、変なことを考えていたのがバレたんじゃないか。そう思った途端に、胸の鼓動
が激しくなる。嫌な汗が出る。
「いや………それにしてもシュウイチ、どうかしたか?」
「え?どうかって、何が?」
「そうだね、なんか汗もかいてるし。」
「えー、そう?わたし、ちょっと解かんないけど………。」
「なんだ、具合でも悪いのか?」
それぞれの宿題を片付けていたはずの皆の意識が、一気にオレに集中する。
マズい。バレるかどうかの問題じゃなくて、オレの心が緊張し過ぎて非常にマズいこと
になってきた。思わず、裏返った声が出そうになる。
「あ、いや、あの………そ、そうだ。」
と。そこでオレは、パッ、と素晴らしい言い訳を思いついた。
「南、ちょっと………トイレ借りていいかな?」
「ん?ああ、それなら玄関に行けば解かると思う。」
「なんだ、トイレ我慢してたのか。オレのことはいいから、行って来い。」
「別にマコト君の為に我慢してたんじゃないと思うけど。」
「ねー。」
精一杯に平静を装って、オレはなるべく自然に見えるように、リビングを後にした。
「(………焦った………。)」
リビングを出て、完全に皆の視界の外に出た後。オレは、ほっと胸を撫で下ろした。
何度か深呼吸して、息を整える。徐々に、鼓動が治まっていく。
「(あれは事故だ………うん。忘れよう。うん。)」
パチパチと何度か頬を張って、オレは自分自身に言い聞かせる。また頭の中であの姿
を想像しそうになって、もう何度か頬を張る。
そのまま、数秒。
「(………すぐ戻ったら、怪しいよな。)」
よく考えれば、素直にトイレに行けば良いだけの話だったのに、オレは何故かリビング
のすぐ外の廊下に立ち尽くしたまま、手持ち無沙汰で時間を潰していた。
そして。
そろそろ戻っても良い頃かな、と思い始めた………そのとき。
「(………………あれ?)」
オレの眼が、薄暗い廊下に差し込む………細い光の筋を、見つけた。
フローリングの上を這うように、リビングとは反対側から、真っ直ぐオレに向かって
伸びている光の線。それを眼で追って行った先の、ドアを見て。
「………………ッ!!」
オレは、息を呑んだ。
玄関にほど近い所にある、1枚のドア。それは、まさしく。
「(カナ、さんの………?)」
そう。カナさんが、南に諭されて引き取って行った、あの部屋だった。
オレの脚が、無意識のうちに動き始める。爪先立ちで、まるで忍者か何かのように、
音を立てないよう気をつけながらこっそりとドアに歩み寄る。そこにぶら下げられた
プレートには確かに、『KANA』の4つのアルファベットが並んでいた。
そして………光が、漏れ出ているということは、もちろん。
「(あ………開いてる………。)」
自分の爪先のすぐ前を横切る、光の線。
もう少しだけ顔を突き出して、視線を向ければ………眼が、ぴったりその位置に来る。
「(いや、そんな………でも………。)」
頭の中で、いろいろな想いがぐるぐると渦を巻く。
人の部屋を、しかも友達のお姉さんの部屋を覗くだなんて、男として最低の行為じゃ
ないのか。バレたらどうするんだ。でも、ここはリビングから見れば完全に死角に
なっている。誰かがリビングから出てきても、ドアを開ける音で解かる。いやいや、
けれどそういう問題じゃない。そもそも何で覗こうなんて思ってるんだ。まだ下着姿
で居るとでも思ってるのか。けれど、こうしてドアは開いているわけで、ちょっと
覗くくらいなら別にどってことない気もする。別に、オレが開けたんじゃないんだし。
それにもしかしたら、まだあの格好で………いや、しかし………けれど………。
「(うー………………。)」
頭の中で、前後の繋がりも何もぐちゃぐちゃなことを考えながら、十数秒。ボクに
とっては果てしなく長く感じられた、その時間の後。
「(………ち、ちょっと、くらいなら………。)」
オレは結局………欲望と好奇心に、負けることを選んだ。
絶対に音を立てないように細心の注意を払いながら、オレは、爪先立ちになってほんの
少し身を乗り出す。そして。
「(せー………のッ!)」
心の中で掛け声を掛けながら、視線を、ドアの隙間に向けた。
直後。

「………〜〜〜ッッッ!!?」
身体が、硬直した。
思った通りそこはカナさんの部屋で、もちろんそこに居たのはカナさんだった。
そう。オレの頭の中のイメージ、そのままのカナさん。
「(ま、まだ………着替えてない………!)」
カナさんは………さっき見た下着姿のまま、ベッドの上に寝転がっていた。
淡い期待が現実の物となって、オレは心の中で、ガッツポーズをする。そんな自分を
恥じている余裕なんて、そのときのオレにはあるはずもなかった。
視線を釘付けにされて、オレは食い入るようにドア越しの部屋の中を見つめる。
下着姿のカナさんが、伸びをする度、寝返りを打つたび、髪に手を添えるたび、オレの
心臓が飛び上がりそうな程大きく脈打つ。鼓動が、まるで耳の後ろから聞こえている
ような気になってくる。
そして、カナさんがおもむろにパンツに手を掻けて、微妙にそれを履き直した瞬間。
オレは、オレ自身の身体の異常に気が付いた。
下半身が、熱い。ズボンが、少しだけキツくなってきた。
それが、どういうことなのか………今時の小学校高学年の男子なら、それくらいのこと
は知っている。
「はっ………ッ、はぁ………!」
息が上がる。汗が出る。喉が渇く。
釘付けになり動かせなくなった、視線の先で。
「(………ん………?)」
カナさんが何か、もぞもぞと動き始める。
ドアに背を向けるようにして、横向きになって、背中を丸めて膝を折って。
両腕は身体の前に伸ばされていて、手は、よく見えないけれど多分、脚の間に………。
「(あれ………って………。)」
その格好、その体勢を見て。
オレが………そのことに気付きそうになった、瞬間。
「………あ、んッ………。」
「(ッッッ!!!)」
ドアの向こう側から、声が、聞こえた。
その、押し殺したようで、妙に甲高くて、熱を持った声は。
確かに………ベッドの上の、カナさんの声だった。
「ふ………ッ、ぁ………。」
もぞもぞと身体を微妙に揺らしながら、カナさんの脚が摺り寄せられるように動く。
「(あ、あああ、あれって………。)」
その動きと、頭を蕩けさせるような甘い声だけで。
オレが、カナさんが何をしているのかを知るには、十分だった。
カナさんが寝返りを打って、身体の正面が、こちら側を向く。
肩をすくめるようにして、身体の前に回された腕は、確かに脚の間に伸びていて、その
先ではカナさんの指が、下着越しに………女の子の1番大事なアソコを、弄っている。
やはりそれは、間違いなく………あの、行為だった。
「(お………オナ………っ!?)」
押したり、擦ったり、指先を曲げて引っ掻いたり。自分の指でアソコを触りながら、
カナさんは、悦んでいるような、困っているような、なんとも言えない表情を浮かべて
いた。
その頬は桜色に染まっていて、その息はオレと同じように荒い。
「ひ、ゃんッ………!」
ときどき、何かに浸るように眼を閉じたり、歯を食い縛ったり。指から刺激が送られる
たびに、カナさんはいろいろな反応を示しながら、その行為に没頭していく。
やがて、脚の間にあった手の片方が、おへその辺りを通って、その胸に添えられる。
そして。
「………ん………。」
「(う、うわ、わわわ………ッ!?)」
突然ブラジャーが、捲り上げられて………胸の膨らみが、晒される。
初めて生で見る、女の人の胸。オレはますます眼を離せなくなり、それを凝視したまま
ゴクリと唾を呑んだ。
下着を捲り上げた手が、カナさんの胸をゆっくりと揉み始める。ゆっくりと円を描く
ような動きを繰り返し、ときどき、ピンク色になった胸の先を親指と人差指で摘んだり
する。そのたびに、ピクリと背中が震える様子が、なんというか………とても、魅力的
だ、というか………エロい、と思った。
「ぅ、んっ………あッ………。」
だんだん、胸全体を触る時間よりも、胸の先を弄る時間の方が長くなってくる。その
動きもだんだん大胆になり、摘んだまま転がすように指を動かしたり、それを引っ張る
ような動きも織り交ぜられるようになってくる。
もちろんその間も、もう片方の手がアソコを弄る動きは止まらない。むしろ、その動き
も併せて大胆になっているような気がした。
「あッ、あ………ひゃ、ぅッ………!」
熱っぽい眼が、何もない空中を見つめる。まるで、カナさんとは別の生き物であるかの
ように、両手の動きはどんどん激しさを増していく。口の端から、つ、と一筋の涎が垂れ
ているのが見える。
思わずオレは………自分の手を、股間に伸ばしそうになった。
そのとき。
「ふ、ぁ………っ。」
「(………あれ………?)」
突然。カナさんの手の動きが、止まる。
カナさんは、両手をそれぞれ胸とアソコに添えた姿勢のままで、しばらく行為を中断
する。視線は相変わらず、空中を泳いだまま。深呼吸のような音が、何度か聞こえた。
そして。止まっていた手が、ゆるゆると動き出して。
「んっ………………。」
次の瞬間。
「(〜〜〜ッッッ!!!)」
カナさんの指が、自分の下着を絡め取って………それを、ゆっくりと降ろした。
裏返しになった下着が、太腿を通って、膝の下まで引き摺り下ろされる。片脚を抜く
為に片方の膝を上げたとき………脚の付け根の間を縦に走る1本のスジが、もろに、
オレの眼に飛び込んできた。
「(うわ、ッ………!!?)」
思わず声を上げそうになり、オレは両手で自分の口を塞ぐ。全身が心臓になったみたい
に、体中が、ドクドクと脈打っているのが解かった。
パンツの、股に当たる部分が、微妙に濡れている。カナさんは脱ぎかけた下着を、片方
の足首に引っ掛けた。それがまたなんとも………エロく、見える。
「はぁ………ん………。」
これで、唯一身に付けていた下着は上下共にその意味を無くして、カナさんはオレの
眼の前で、ほとんど生まれたままの姿の、綺麗な身体を晒していた。下着が取り去られ、
綺麗で柔らかなラインを描くそのシルエットに、オレは改めて見惚れてしまった。
丸見えになったスジからは、何か、透明な液体が染み出しているようだった。さっき
パンツが濡れていたのは、きっとその所為だ。
見惚れるオレの視線の先で、行為は、なおも続行される。
カナさんは横向きから仰向けへと体勢を変えて、手を挟み込むように閉じていたその
両脚を開いた。また、脚の間のスジが、惜し気もなく晒される。オレは乾ききった喉を
鳴らして、食い入るようにその姿を見つめた。
カナさんは片手で再び胸をこね回しながら、空いた手の指を、恐る恐るという感じで
そっとスジに這わせた。スジの上を、カナさんの細い指が何度も、何度も往復する。
溢れた液体がカナさんのアソコと指を濡らして、シーツの上に垂れている。
「はぁ、ぁ………ひぁ、んッ………!」
「(さ、触ってる………直接………!!)」
ときどきスジの端で指が止まって、何かを摘むか弾くかするようにもぞもぞと動く。
その動きに併せるように、カナさんは腰を浮かせて、大きく開いた脚をピクピクと
震わせた。
スジを丹念に解した後、カナさんの行為は次の段階に入る。
「ふッ………………。」
カナさんは突然手を伸ばし、そこにあったペン立てから、1本のマジックを取り出す。
それは丸いキャップの、どこにでもありそうな太い黒の油性マジックだ。
おや、と思っている間に、カナさんは、手にしたマジックを自分の脚の間へと導いて
いく。その先端が、スジの上でぴたりと止まる。
「(え………………!?)」
そして。マジックのキャップが、スジの上を何度か往復した………その、後。
「んんっ………ッ!」
「(わッ………!!)」
カナさんがきつく眼を閉じるのと同時に、ぴたりと閉じていたスジを緩やかに押し開き
………その先端が、くちゃり、とカナさんの中に呑み込まれていった。
「あ………ッ………。」
全体の半分ほどがずぶずぶと呑み込まれた後、カナさんは少しの間、惚けたような表情
で自分からは見えないはずのその部分をぼんやりと見つめていた。
「(すご………は、入って………!?)」
ほんの少しの静寂の後。侵入したマジックがまた、くちゃり、と音を立てて動き出す。
初めは、ただ真っ直ぐに抜き差しするように。次に、スジの内側を上下に擦るように。
さらに、角度をつけて、トロトロと溢れ出す液体を掻き出すように。
「あ、やンッ………ん、ぅ………!」
やがて、マジックの隣に、カナさん自身の指が1本挿入される。スジが更に押し広げら
れて、隙間から更にたくさんの液体が溢れ出して来る。増えた指がより深く、大胆に
内側を抉り、さらにマジックを円を描くように動かして中を掻き回す。水音が大きく
なる。マジックと指がスジを目一杯まで押し開くと、その奥のピンク色が姿を覗かせた。
「ん、ッう、あン………や、ぁ………。」
流れ出す液体が、スジと、マジックと、手と太腿とお尻をシーツを容赦なく汚していく。
てらてらと光を反射している様子が、妙に興奮を煽る。
カナさんは硬いマジックと柔らかい指とを使って、自分のアソコをぐちゃぐちゃにこね
回すように弄り続ける。
「はッ、ふぁッ、に、ゃぁンッ、んぅっ………ッッ!!」
「(っ、は………はぁッ………!!)」
カナさんが高まっていくにつれて、オレの息もどんどん荒くなってくる。つい、自分が
こっそりそれを覗いているのだということを、忘れそうになる。そうして何もかもが
どうでも良くなってくる程、眼の前の光景は魅力的で、どうしようもなく刺激的だった。
「やぁ、ッ………んっ!」
カナさんが、おもむろに体勢を変える。その場でごろり、と180度身体を回転させて、
仰向けからうつ伏せになる。そのままカナさんは膝を立てて、まるで猫が伸びをするとき
のように腰を突き上げて、最高に敏感になったアソコと、お尻の穴までもを、オレの
眼の前に曝け出した。
「ん、んんッ!ひゃ、いや、ぁっ………!!」
「(はっ………ナ、さん………!!)」
甲高くて、気がおかしくなりそうな程可愛らしい声のボリュームが上がっていく。
顔はベッドに突っ伏したまま、全身をわななかせながら腰だけを突き上げて、片手で
限界まで開いたピンク色のアソコに、マジックを必死で抜き差しさせる。角度をつけて、
内側の壁をぐりぐりと刺激し、さらに外側、スジの途切れた所にある1番敏感な部分を
弄るのも忘れない。
何かに弾かれるように、綺麗なお尻が何度も跳ね上がる。太腿は溢れた液体でビショ
ビショになって、それでも余った物がマジックを伝ってシーツに滴り落ちる。
「(カナ、さん………ッ………!!)」
頭が、勝手にその名前を呼ぶ。眼の前で繰り広げられている光景のこと以外は、もう、
何も考えることが出来なかった。
「や、あ、んん………も、もうッ………!!」
カナさんの声に籠る熱が最高潮に達して、マジックの動きがラストスパートを掛ける
かのように加速していく。
そして、次の瞬間。
「う、ぁ………〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」
声にならない声を、上げながら。カナさんが、その身体をビクビクと引き攣らせた。
背筋が伸び、腕が硬直し、爪先がピンと伸びたまま震える。
しばらくその姿で固まった後、カナさんはやがて、糸が切れた人形のように、くたり、
とベッドの上で崩れ落ちた。
「は、あ………ん………v」
「(………………。)」
恍惚の表情を浮かべながら、カナさんはぐったりとベッドに突っ伏している。ときどき
余韻のように、その身体がピクピクと弱々しく震えた。
「(………………っ。)」
事が終わり、無防備な姿でへたり込むカナさんの姿に。
オレは………体の内側から、何か、熱いものが込み上げてくるのを感じた。
が、次の瞬間。

『ガチャッ』
「ッッッ!!?」

リビングのドアが、音を立てる。
オレは自分でも驚くほどのスピードで、しかもほとんど足音を立てないまま、一気に
ドアから飛び退く。一瞬の間を置いて、ドアの向こうから、マコトが顔を覗かせた。
「あ、居た居た。なかなか戻って来ないから、どうしたのかと思った。」
「え、あ、うん………ご、ゴメン、ちょっと、ね。」
「なんだ、腹でも壊したか?」
「いや、別に………大丈夫。」
何も知らない様子のマコトに向かって、オレは引き攣った笑みを浮かべる。マコトの
後ろで、南が『それじゃまるで、ウチが悪い物でも出したみたいじゃないか。』とか
なんとか言っているのが聞こえた。
「ホント、大丈夫だから。」
「よし、じゃぁ続きだ。頼んだぞ、オレの宿題の為に!」
そう言った後ろから何かが投げつけられ、マコトの後頭部にぶつかる。マコトは、
おそらく南に向かって何かを言いながら、リビングへと戻って行った。
誰も居なくなった廊下で、オレは胸を撫で下ろす。
「(危なかった………も、戻ろう………。)」
何故か忍び足になりながら、カナさんの部屋のドアの前を通り過ぎる。
通り過ぎながらオレは、まだ隙間の開いているドアを横目でちらりと確認したが、歩き
ながらでは、その向こうに何が見えるのかは解からなかった。
「は、ぁ………………。」
………………。
「………………。」
………………なんだ。もう、行っちゃったのか。
「ふぅ………ふぃー………。」
荒くなった息を整えるように、私はゆっくりと何度か深呼吸をする。
「(アレで気付かれて無いと思ってるんだから、可愛いじゃないか。)」
快感の余韻で、まだ身体に力が入らない。まだ、ときどきピクピクと震えの来る身体を
ベッドに横たえたまま、私は、ぼんやりと今の行為について考えを巡らせていた。
「(しかし、まぁ………。)」
最初はマセた小学生、シュウイチといっただろうか、あいつをちょっとからかってやる
くらいのつもりだったのに。何がなんだか解からないうちに、ついつい盛り上がって、
結局、自分を慰めてる所までお披露目してしまった。
しかし………独りきりでやるより、なんだか、随分気持ち良かった気がする。
「(なかなか………悪く、ないかも知れないね。)」
にへら、と口元が少しだけ緩む。
「(………って、それじゃまるで痴女だよ。)」
いや、まるで、というか痴女そのものでしかない気がしてくる。いかんいかん、と頭を
振って、私は浮かびかけたアブない考えを振り払う。
が。また、すぐに同じ考えが浮かんでしまう。今度は、抵抗する気も起こらない。
「(………藤岡来たときにでも、また、どうにかして試してみるかな………。)」
そう考えると、絶頂を越えたはずの身体が、またじんわりと熱くなって来るような気が
した。ああ、もうダメだ、どうやら完全にハマり掛けてるらしい。
心の中でかなり危険な計画を立てながら、私は一人でほくそ笑んでいた。

やがて、身体中に広がった倦怠感が薄れてくる。
私は汚れた下着を脱いで、シーツを畳んで、身体を拭いて、着替えを済ませる。
「(じゃ、まぁ今日のところは………。)」
心の中でもう1つ、危険な計画を立てながら。
「(シュウイチクンの反応でも見て、楽しむとしようかね。)」
私は部屋を出て、チアキ達の集まるリビングへと向かった。

 

 

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